「ベニス」が、マーラーが心に沁みる・・・

「ベニスに死す」を観てきました。
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アラフィフ以上の人なら誰でもタイトルに覚えがあるのではないでしょうか。
ビョルン・アンドルセンという名前も、当時(1971年)まだ子どもだった私でも覚えているぐらい
一斉を風靡したセンセーショナルな映画だったと思います。

私は子どもだったその当時はもちろん、その後も観たことがなく、
なんとなくこういう映画かな~ぐらいの知識しかなかったのですが
映画好きな友人(自身も元俳優座の女優さん)に誘われて観てきました。

良かったです・・・ ああ、昔の映画っていいわあ。映画ってこういうものだったわ。

今の映画だったらバッサリカットされているであろう、
ストーリーとは関係ない、空気観作りだけのためのようなシーンがゆったりと続いたり
これでもかというぐらい見せつけられる、耽美、という言葉そのものの世界。

実は、途中で退屈しちゃうかな、と思っていたのですが、全然。
1900年代初めのベニスに行っちゃっていました。私も。

友人の誘い言葉にもあったのですが、マーラーが沁みる・・・
交響曲5番のアダージェット。
この曲には、個人的な思い出がからむんです。

もう20年以上前、某国営放送局のオーケストラのエキストラ(臨時雇い)をしていたとき、
この曲は本当にプレッシャーのかかる「怖い」曲で。
冒頭から、超ピアニッシッシモ(ごくごく小さい音)で、自分の音を目立たせることなく
でもきれいな均一な音量、音質を保ってロングトーンで・・・と思うと
極度の緊張でバイオリンの弓を持つ右手が震えるんです。
ベテラン団員の方でも震えて弓がバウンドして音が飛び飛びになるぐらい。
ペーペーのエキストラの私なんてそれを感じて怯えて怯えて、
「緊張で弓が震える」って聞いたことはあっても経験なかったのに
あの曲で初体験して、以来「小さい音のロングトーン」恐怖症に・・・
ちょっと震えると、それをまた「イヂワル」な人(自分は震えない人や他の楽器の人)が
ことさらジロリと見たりして、それが怖くてまた震えて。

だから先のスケジュールが貼りだされると、まずこの曲があるかどうかドキドキ調べました。
そのオーケストラの仕事をもらっていた、のべ三年足らずの間、ずっとそうでした。

映画の冒頭からあの曲が流れて、もう当時のあらゆることが一気に思い出されて。
仕事していた頃の自分。若かった、子どももいない、自分だけのために生きてた私。
ああ!若かった、青かった、浅かった、愚かだった、悔やまれることのるつぼ。。。

でも、あらためて聞くと、なんて良い曲なのでしょう!
心に、頭の芯に、沁みる、動かされる。
やっぱりオーケストラっていい! 

この映画が、あの曲がこんなに沁みたのは、私が歳をとった、ということなのでしょう。
今、この気持ちで、この心で20代のあのころをもう一度やり直したい、
「老いる(老いて劣化する)」ことも一つのテーマであったこの映画に
深く考えさせられてしまった自分が・・・   ちょっと悲しくもあり。




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by mamimi-loves-leo | 2011-10-05 22:27 | お出かけ | Comments(6)

Commented by チップ&デールママ at 2011-10-06 09:56 x
この曲じーんときてステキですよね
でも演奏者の方はとても緊張しながら演奏しているんですね
聴いている側の私ですが、静かな曲調の時になぜかここでクシャミしたらどうしよう!なんて余計な事を考えてしまいます
どんなに曲に感動していても、毎回思うんです〜
こじんまりした室内合奏団を聴きにいった時なんてずっと妙な緊張していました(^^;)
Commented by おっさ at 2011-10-06 10:58 x
タッジオ少年はもちろんのこと、彼のお母様、家族のたたずまいの美しさ、
これそ完璧な美!
この映画、田舎の女子高生だった私には地球の裏側にぶっ飛ぶほどの
カルチャーショックでした。
無知で多感だった頃に見た印象は美しい、だけだったけど、
大人になって、退廃の美だの死と官能の極限だの
語れるようになってからは、映画の甘美な余韻というものを
味わえるようになりました。
本物の映画は味わい深く、奥が深いですよね。
ヴェニスつながりで、ヴィスコンティの「夏の嵐」もオススメです。
こちらの音楽はオペラ、大人だから味わえるメロドラマ~
Commented by mamimi-loves-leo at 2011-10-06 22:57
チップ&デールママさん。
わかるわかる!
私も演奏会を聞きに行ったときは、息をするのもはばかられるような静寂時に
お腹が鳴ったりするんです~(-_-)
こういうのって精神的な事も影響するから、
ちゃんと食事をしていこうが飴を舐めようが心配すればするほど鳴る。
ひところその恐怖症になったときもあって、
あと何小節我慢すればフォルテになる・・と、楽譜を浮かべて頑張りました。
辛いことって多いですね(^^ゞ
Commented by mamimi-loves-leo at 2011-10-06 23:03
おっささん。
こういうのが映画ですよねー。この贅沢感、非日常感。
今はテレビドラマや漫画が元になった映画が多いから
これならDVDでも良かったな、と思うのも多いですけれど
あの特殊な世界、空気に浸るには映画館ですねー。
世界中を感動させる大作曲家が今はもう出ないのと同じに、
ああいうある意味「無駄」をも芸術にしちゃう映画も出にくいのでしょうか。
Commented by sogno_sonyo at 2011-10-06 23:04
あ~まみみさん・・語るなぁ。
れおくんのこともなのだけど こういう表現力も素晴らしいのよね。
まみみさんの映画評論をうかがうと絶対観たくなってしまう。
(ブラック・スワンは見ませんでした 笑)
この映画は若い頃に観たのだけど そうねぇ・・
きっと今なら違う気持ちで受け入れられるわね。
なんだかまみみさんの記事だけで胸が痛くなるほどです。
Commented by mamimi-loves-leo at 2011-10-07 22:31
sogno_sonyoさん。
まあ、過分なお言葉、ありがとうございますm(__)m
古き良きものが心に沁みるお年頃になったようです。
昔なら「たいくつー、へんなおじさんー。」
ぐらいにしか思えなかったかもしれませんが
人生いろいろ経てきましたからね・・・しみじみ。
クラシック音楽も、仕事で毎日溢れるほど接していたあの頃より
今の方がずっと好きかもしれません。